通関士の輸出申告業務ってどんな仕事?
輸入申告業務とは全然別物なの?
『輸出申告業務』は通関士のメイン業務の一つです。
新人からベテランまで、ほぼすべての通関士が取り組むでしょう。
日本から貨物を輸出するためには税関から輸出許可を受けなくてはなりません。
輸出許可を受けるための業務が『輸出申告業務』であり、『輸出申告業務』を代理代行できるのは通関士だけと法律で定められています。
この記事を読むことで、あなたは通関士のメイン業務『輸出申告業務』について実務をイメージすることができます。
通関士を目指す方にとっては業務理解につながるはずです。

現役通関士の私が詳しく解説します。
目次
日本から貨物を輸出する場合、税関の許可が必要
日本の製品は海外に輸出され、当然のように売られています。
海外旅行に行くと、日本車を見かけませんか?
日本から輸出する全ての貨物は税関の『輸出許可』を受けています。
全ての輸出は税関に提出され、税関のデータベースに蓄積されるのです。
税関から輸出許可を受けるための業務が『輸出申告』です。
『輸入貨物はどんなものか、行先はどこか』を税関に申告するとイメージしてください。
輸出申告業務の義務は『輸出者』にあり
輸出申告業務は誰でも行えるわけではありません。
基本的には海外と貿易契約を結んだ『輸出者』が輸出申告を行うこととなります。
輸出者になることが多いのは商社・メーカー・小売りです。
商社は海外とのネットワークを活かし、日本の製品を海外へ売るお手伝いをします。
メーカー・小売りは販路拡大を目的とした海外展開のために輸出を行うでしょう。
そのため、一部の商社・メーカー・小売業者は自分たちで輸出申告を行っています。
商社・メーカー・小売業者の社員が税関とやり取りを行い、輸出許可を受けるのです。
輸出申告業務は専門性が高く、専門家でないと対応が難しいです。
現実的には大半の輸出者が通関士に輸出申告を依頼することになるでしょう。
輸出者を代理して輸出申告を行うのが『通関士』
大半の輸出者(メーカー・商社など)が輸出申告業務を通関士に頼むでしょう。
通関士は輸出者を代理代行し、輸出者の名義で輸出申告を税関に行います。
輸出申告の依頼を受けることができるのは通関士だけです。
より正しい言い方をすると、輸出申告を受けられるのは『通関業者』だけであり、通関業者は通関士を雇用する義務があります。
通関業者って何?具体的にどんな会社があるの?現役通関士が解説
基本的に輸出申告の内容は全て通関士がチェックする必要があります。
通関士は税関に行う輸出申告の内容を最終チェックできる唯一の存在だと理解してください。
輸出申告業務のポイント2つ
輸出申告は『輸出申告書』を税関に提出する形で行われます。
現在は専用のシステムに輸出申告書の内容を入力し、税関に送信するのが一般的でしょう。
通関士に求められる能力・知識はこんなものです。
- 一字一句ミスの無い入力作業
- 輸出統計品目番号の判断
それぞれ見ていきましょう。
一字一句ミスの無い入力作業
輸出申告書の記載項目は大半が転記で事足ります。
貿易書類の内容をそのまま書き写すだけです。
例えば、こんな内容を転記していきます。
- 輸出者の名称
- 貿易相手となる海外企業の名称
- 取引価格
- 積載予定の船(飛行機)の名称
- など
これらは全て貿易書類に記載されています。
通関士に求められるのは『正確な入力作業』です。
通関士は法律知識・貨物分類の専門知識を求められる一方、単純な入力業務もかなり多いことを覚えておいてください。
輸出統計品目番号(輸出統番)の判断
通関士は輸出貨物が分類される輸出統計品目番号(輸出統番)を判断します。
輸出申告業務において、最も通関士が頭を悩ませる項目です。
輸出統計品目番号(輸出統計番)とは、輸出貨物を分類するための9桁の番号です。
輸出申告書には『具体的な品名ではなく』、貨物を表す輸出統番を記載する必要があるのです。
例えば、『牛乳』を輸出する場合を考えます。
輸出申告書に『牛乳』と記載しても輸出は許可されません。
『牛乳』が分類される輸出統番は『0401.20-000』であるため、『0401.20-000』と輸出申告書に記載する必要があります。
【輸出通関の必須知識】輸出統計品目番号を知ると仕事の幅が広がる話
輸出統番の判断は輸出申告において最も通関士が頭を悩ませるポイントです。
通関士の腕の見せ所とも言えます。
輸入申告との大きな違い
輸出申告と輸入申告、実務は非常に似通っています。
特に輸入申告の経験があれば、輸出申告への移行はスムーズに行えるでしょう。
輸出申告・輸入申告って何するの?基本的な業務手順を通関士が解説
基本的に輸出申告は輸入申告よりも業務工数が少なくなります。
その理由は次の通りです。
- 輸出には税金がかからない
- 輸出に必要な他法令が少ない
- 輸出に対する税関の監視が甘い(気がする)
それぞれ見ていきましょう。
関税・消費税がかからない
日本から貨物を輸出する場合、税金がかかりません。
輸出申告書には『税金』に関する内容を記載しなくても良いのです。
一方、日本に貨物を輸入する際、関税・消費税という税金を支払う義務があります。
輸入申告書には『税金』に関する内容をばっちり記載します。
輸入時に納付が必要な関税ってどんなもの?現役通関士の目線で解説
『輸出申告はスピード重視』とされるのはこのためです。
輸出申告のミスは『金銭的損失』に繋がりにくく、輸出スケジュールに間に合わせる通関対応が求められると理解してください。
該当する他法令が減る
輸出貨物は他法令による規制が緩いです。
日本に輸入(流通)する貨物の方が厳しく管理されています。
他法令というのは『税関以外の官公庁が管理する貿易規制』のことです。
税関への輸出申告・輸入申告の前にクリアしておかなくてはなりません。
【通関業務をしない通関士】他法令業務を専門とする通関士もいる
輸出(日本から出ていく)貨物については他法令による規制が一気に緩まります。
輸出を専門で担当する通関士は他法令の知識を全く持たないなんてこともあり得るでしょう。
輸出申告は最低限必要な知識が最も少ない通関業務と言えるかもしれません。
もちろん難易度の高い輸出申告もあります。
ただ、新人通関士が頻繁に輸出申告を任されることも覚えておいてください。
税関のチェックが甘い(と感じる)
輸出申告に対する税関のチェックは甘い傾向があります。
輸入申告に比べ、書類審査・貨物現物検査になる割合が小さいです。
『輸出(日本から出ていくもの)』よりも『輸入(日本に流通するもの)』を厳しく取り締まる傾向を通関士は強く感じています。
税関とのやり取りは少なくなり、『一人でやる仕事』の要素が最も強いのが輸出申告業務だと考えてください。
輸出申告業務についてまとめ
この記事は通関士の輸出申告業務ついて紹介しました。
ポイントはこんなところです。
- 日本から輸出する全ての貨物は税関の輸出許可を受けている。
- 税関から輸出許可を受けるために輸出申告を行う。
- 輸出者が輸出申告業務を義務付けられている。
- 輸出申告を代理代行できる唯一の存在が国家資格職『通関士』。
- 輸出申告業務は『正確な入力』『輸出統番の判断』が問われる業務内容。
- 輸入申告とは『税金がかからない』『他法令にさほど該当しない』『税関のチェックが甘い』点で実務内容が大きく異なる。

日本の貿易を陰から支えると言われる通関士。
その理由は通関士が輸出申告業務を行えるためです。
ニッチで専門的な業務をこなしているということを理解してください。
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